〒413-0102 静岡県熱海市下多賀477
歩むペースは、人それぞれ。考えていることも、千差万別。それで当然です。
ただ、職場内では、時に自分の思い通りに物事が進まないケースは多々あります。
「今はゆっくりと考えたい」という人もいれば、「ここで学ばなくてどうする」という人もいることでしょう。
一般的に、相反するこの二つが同居することは難しいとされていますが、
その人らしく働くことを第一と考える病院があります。
静岡県熱海市の南熱海病院です。
小田原から熱海を経由してJRで伊東方面へ。
相模湾を一望できる素晴らしい海の風景と何度も出会いながらJR網代駅に到着しました。
かつては、「京大阪に江戸網代」といわれたほど重要な港町で江戸と関西を往来する諸国の廻船や商人でにぎわっていたそうです。
いまは、当時の華やかな面影を感じることも少なくなっていますが駅から病院まで、徒歩5分間の道のりの中でも海と山に囲まれた自然とともにあるくらしを垣間見ることができました。
小林さんが南熱海病院に転職してきたのは、2020年4月のこと。
東京の看護専門学校を卒業してから国立の小児専門病院に勤務していたそうです。
しかし、都会と人の多い職場に疲れてしまい、離職を決意しました。
派遣でもいいかな。
頭の中では、正社員の方がキャリアアップできると
分かりつつも一歩引いた場所に身を置きたいという
気持ちが日に日に大きくなっていったのです。
そんな時に、知り合いから紹介されたのが、
南熱海病院でした。
「信頼できる人から勧められたので一度だけは面接に行ってみようと考えました」
知人に連れられ、熱海から伊東行きの電車に乗った小林さんは目の前に広がる海の景色を見て、心を揺さぶられました。
海と山が近く、その中に人々のくらしが点在している風景を見るほどにより自然体になっていく自分がいたと小林さんは話してくれました。
とはいえ、この時の訪問は、転職のための面接が目的。
小林さんが思い描く職場環境と南熱海病院の現実が一致していなければ、話はそれまでです。
「どんな病院でも、結局は似たり寄ったりなのかも」
前にいた職場で疲れてしまっていた小林さんは、過度な期待をしていませんでした。
しかし、その考えは、良い意味で裏切られたそうです。
「何よりも、まだ面接に来ただけの私に対して看護師さんたちがやさしく声を掛けてくれたのが印象的でした」
さらに、師長さんや看護部長さんに病院内を案内され、面接で話し合っていくうちにスタッフを大切にする風土や理念が職場に浸透していると感じて「ここでなら働きたい」と思うようになっていたのです。
「師長さんは、明るくて頼りになる大先輩という印象で看護部長さんはお母さんみたいな方。初めて会った面接なのに、前職での悩みを思わず相談したほどです。入職してからも、印象どおりの方々でした」
面接に合格し、南熱海病院で働き始めた小林さんですが実はもともと子供が好きだったため、小児専門の病院希望をしていました。
しかし、NICUに配属となり基本的な看護技術が身についていないことに気がつきました。
自然豊かな場所で落ち着いて看護技術に取組みたいとも考えました。
しかし、新しい環境の南熱海病院は、透析患者が多い慢性期の病棟。学んできたスキルを生かせない可能性が高い職場です。
働いていく中で問題はなかったのでしょうか。
「分からなければ質問してねとみんなが言ってくれます。ある日、経管栄養をやったことがないことをおそるおそる伝えました。すると、小児科経由だから当然だよねと基本から丁寧に教えてくれたのです。急性期の場合の応用方法まで教えてもらいました」
看護師は、最終的に総合力が求められる仕事です。当然、若いうちはひとつかふたつの診療科のことしか知りません。しかし、全員でさまざまな経験を持ち寄れば、総合的なレベルアップが可能です。
初歩的なことでも分からなければ聞ける雰囲気があり実際に聞いても快く教えてもらえるということは南熱海病院のチームが機能している証といえるでしょう。
この経験は、小林さんにひとつの決意をさせることになります。
「二度、同じことを質問することがないようにしようと思いました。小田原から網代まで電車通勤をしていますが、その往復時間で勉強をしています。特に透析は専門用語の略語が多いので、やりがいがあります」
一か月ほど前、看護師という仕事から離れたいと考えていた小林さんは見事にやる気を取り戻して前に進み始めていました。
「もう一度がんばろうと判断して良かったと思えるようになりました。先輩たちの存在も大きいですが、何よりも患者様の存在が大きいです。こんなにも明るく接してくださるとは思ってもいませんでした」
「患者様が明るく話しかけてくださるのは、海のおかげかもしれませんね。病室はもちろん、食堂からも海が一望できます。車いすに乗って窓際まで行き、海を眺めている患者様ってけっこうおられるんです」
そう話す小林さん自身も、海という存在の大きさを感じていました。
人の心を癒す海と、互いを支え合うチームワークの相乗効果は小林さんに、ひとつの目標を与えました。
「いま、私が小児科で経験できないことをしているのはむしろ、運命かもしれないと考えるようになりました。さまざまなことを学んで、いずれは小児科の道に再チャレンジしてもいいのかなって」
以前の職場で悩んでいたのは、もう過去の話。
「今度、東京の時の同期と箱根に遊びに行こうって話しています。楽しみです」
回り道ではなく、いまここにいる必然性を感じながら丁寧なケアを展開する南熱海病院の慢性期の看護にいまは魅力を感じていると小林さんは話してくれました。
奥村さんは、数ある医療ジャンルの中から
なぜ透析の技術を身につけようと思ったのでしょうか。
いまでは30年以上も生命を維持できる実績を持つ透析。
その初期の頃から出会っていた奥村さんは
いち早くこの道を極めたいと考えたそうです。
ただ、そこには今だからこそ言える理由もありました。
「私の世代に、男性の看護師はほとんどいません。
となると、女性がほとんどの職場になるわけですが当時は男女2名での夜勤ができないなど男性であるがゆえに、スキルアップの機会を失うことが多かったのです」
そんな時に目の前に現れたのが救急、オペ室、透析室という3つの選択肢。奥村さんが選んだのは素晴らしさを体感した透析の道でした。
自らを高め、周囲にも存在感を示すために奥村さんは資格の取得に尽力してきました。
「これまで、透析技術認定士、腹膜透析指導認定看護師を筆頭にさまざまな資格を取得してきました。つい最近では、心電図検定4級に合格をしています」
資格を取れば、勉強と活躍の場が与えられると考えた奥村さん。
しかし、思うようにいかないことが連続したそうです。
「これまでにいくつもの病院を転々としています。
透析のスキルを生かせると面接で言われて入職しても実際に現場に入るとルーチンワークばかりということもありました」
自身を生かせる職場をずっと探していた奥村さんは
透析患者が約8割という南熱海病院に辿り着きました。
2019年4月に法人が変わったことで、透析治療分野の体制強化を考えていた病院もまた、奥村さんのような人材を探していたのです。
奥村さんが働く透析室の一日とは、どのようなものなのでしょう。
「7時ぐらいからプライミング。
その後、ミーティングをして8時頃から患者様が入室されます。
9時ぐらいまでに穿刺して順次、透析をスタート。
一回が4時間なので昼ごろには、だいたい終了しています。
午後は入院患者さんのケアや追加の透析、翌日の準備に充てています」
一人の看護師が担当する人数は10~15名。
チームには、何よりも安全な処置を徹底しているそうです。
「互いに目配り、気配り、心配りをし合うことを重視しています。
これは、患者様に対しても、スタッフ同士にも必要なことですね」
ひとつのミスが命に直結する透析の現場。
それだけに合併症の予防、穿刺ミス、空気の混入など透析の代表的なミスを起こさないように相互チェック体制を強化し安全な透析を提供しています。
「透析室に入って必要な勉強といえば、循環器や腎臓に詳しくなることです。処置中に不整脈が出たり、心筋梗塞を起こすことがまれにあり早期発見のためには、症状などを知っておくことが何よりも大切ですから」
高齢者の透析治療を勉強したい人にはぜひ来てほしいし透析が未経験でも教えるのでまったく構いませんと話す奥村さん。
一方で、チーム内の環境づくりにも積極的に取り組んでいます。
「風通しが良い職場を誰もが望んでいると思います。
ですから、意見が通りやすい、意見を発言できる、質問できる。この3つを大切にしています」
まだ今年入ったばかりだからと笑う奥村さんですがスキルアップを求めて南熱海病院に入って早速、新しい勉強の機会がやってきたと話してくれました。
「当院では、全国に先駆けて腎臓リハビリテーションを導入し始めました。
エアロバイクのような専用器具を使って軽い運動をすることから症状の緩和と体力の低下を防ぐものです」
透析患者さんは、年間に600時間以上もベッドで横たわらねばならずその影響で歩けなくなってしまう高齢者もいるとのこと。
時間をもてあましてしまう透析中でもできる気軽さから現在は3名の患者さんが自ら志願して体験しているそうです。
「その様子を見た他の患者様からあれは、何をやってるの?と聞いてもらえた時に、やりがいを感じます。ご本人の興味が、最良の導入へのきっかけですから」
海を一望できる素晴らしい立地を生かして透析ツーリズム(透析をリラックスタイムとポジティブに捉え透析を兼ねて遠方へ旅行すること)の分野にも目を向けるなど他に先駆けて新しい技術やサービスを導入していく南熱海病院で今日も奥村さんは透析のスペシャリストとして活躍しています。
「母に看護師になりたいと打ち明けると、快諾して学校に行かせてくれました。私も娘が研究者になりたいと言った時は、ぜひやりなさいと応援しまし
た。その流れのまま、若い看護師たちにも娘のように接しているんでしょうね。「やりたい」と言われたら、どんどんチャレンジしなさいと言っています」
「ですから、どうしても長い目でものごとを考えるクセが身に付いています。この子たちが看護師として、10年、20年と過ごした時にちゃんと思い描いた自分になれているかと、気になってしまうのです」
定年した齋藤さんが南熱海病院にやってきたのは、2016年のこと。
以前の職場で透析業務を先駆的に関わってきたところだったため看護部長として来てもらえないかと白羽の矢が立ったそうです。
「同じ静岡県内で透析に取り組んでいるところということで以前から、南熱海病院のことは知っていました。
それまでに当院が培ってきたものと私が得てきた経験を整理してワークライフバランスや制度の充実などを推進しています」
齋藤さんは特に病院という職場だから起こる特殊な慣習を打破しようとしていると語ってくれました。
具体的な例としては、長時間勤務や早出出勤のシフト。
これらは、いまの社会において一般的ではないと判断したそうです。
「この規模の病院ですから、早出までして情報を集めなくても来たら患者さんの顔を見たら分かるからと言っています。
このあたりは管理職がきっちりと大丈夫よと言ってあげなければ奉仕の精神を持つスタッフほど、しんどくなってしまいます」
ワークライフバランスを推進しなければ看護業界は社会から取り残されるという危機感すら持っているとのことで出産や育児を筆頭に、その人のライフステージに合わせた「可能な働き方」を一緒に見つけようとしているそうです。
また、齋藤さんは院外で社会との接点を持つことを奨励しています。
「周辺の病院の看護部長さんとは、顔が見えるお付き合いをしています。まだこれから具体的にしていく段階ではあるのですが互いに研修をし合うことで、他の専門領域の勉強機会は生まれます」
さらに齋藤さんは、こう話します。
「プライベートの交流も、人間性が育まれるため重要です。だから、スタッフたちには、趣味を持ちなさい。そこで出会う人と深くお付き合いしなさいと伝えています」
齋藤さん自身も、研修先で出会った人たちやプライベートの習い事を通じて、人生の豊かさと学びを得られる場を増やしてきました。
看護師さんたちの中には、スキューバダイビングや料理など網代近郊でできる趣味を持つ人たちがたくさんいるとのことです。
それでは、南熱海病院はどのような看護師を求めているのでしょう。
「明るくて誠実な方です。健康でいてくれたらなお嬉しいですね。当院の理念の中に「真心」という文字があります。たとえば、男の子がお婆さんをおんぶして階段を登ってあげた。これを「心」という人もいますが、私は「行動」だと思っています。心が行動を促し、真心になる。そんな看護を一緒にしていきたいです」
看護部の理念は、「安全、安心、真心」。
やさしい言葉や笑顔も、心が行動になったもの。
生涯のテーマですと齋藤さんは話してくれました。
「私もスタッフたちも、あれこれがんばっています。
でも、目の前に広がる大きな海は毎日、患者様や私たちに、心の豊かさを与えてくれます。人は自然の中に生きているんだなって」
それぞれが思い描く人生を、医療の場で実現している南熱海病院。
あなたが探しているのは都心からもある程度は近くて、自然の恩恵を受けながら人と人が支え合って成長し、暮らしていける場所ではないでしょうか。